【検証】電気自動車は環境に悪い?日本の電源条件とHV比較で見る答え

【検証】電気自動車は環境に悪い?日本の電源条件とHV比較で見る答え

「EVは排気ガスが出ないから環境にやさしい」と思って調べ始めたのに、検索結果には「バッテリーを作るときに大量のCO2が出る」「リチウム採掘が環境を壊している」という正反対の話が並ぶ。次の愛車にEVを考えている方ほど、ここで手が止まるのではないでしょうか。

先に結論をお伝えします。EVは製造時、とくに駆動用バッテリーの製造で環境負荷が増えやすい一方、走行時には排気ガスを出しません。ライフサイクル全体のCO2は、充電する電気の電源構成、走行距離、車両や電池の大きさといった条件で変わります。そのため「EVは環境に悪い」「EVは環境に良い」の一言では判断できません。

とはいえ「条件次第です」で終わっては、乗り換えを考えている方の役に立ちません。そこで本記事では、日本の電源構成に近い条件の研究データを使い、EVがガソリン車やハイブリッド車(HV)より何km走るとCO2が少なくなるのかまで数字で確認していきます。

この記事でわかること!

  • 「EVは環境に悪い」と言われる理由のうち、事実の部分と条件で変わる部分
  • 日本の電源構成で、EVがガソリン車・HVより何km走るとCO2が少なくなるか(筆者試算つき)
  • 電池容量・電池の種類・車格で結論が変わる理由と、CO2以外の環境負荷の見方
  • V2H・太陽光が効く部分と効かない部分、環境面からEV・HV・ガソリン車を選ぶ判断軸

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この記事は、筆者がEVを所有・運用した体験談ではありません。電力中央研究所、資源エネルギー庁、環境省、IEA(国際エネルギー機関)、ICCT(国際クリーン交通委員会)、自動車メーカーが公開しているLCA資料などの公式情報・公開データ・研究資料を読み比べて書いています。製造、燃料・電力の製造、走行、電池資源、廃棄の評価範囲を分け、電源構成・走行距離・電池容量の条件をそろえて検証します。出典の調査年と対象地域は本文や表に書き添え、筆者が公開データから計算した値には「筆者試算・参考値」と明記しています。

初心者ユーザー

で、結局EVとガソリン車、環境に悪いのはどっちなんですか?

自動車専門家 Mr.K

答えは「条件次第」です。ただ、その条件はかなり具体的に絞り込めます。冷静に数字で見てみましょう。

目次

「環境に悪い」と言われる理由は、事実・条件次第・別問題の3つに分けられる

EVが環境に悪いと言われる理由は、3種類に分けられます。「電池製造でCO2が増える」は事実、「充電する電気が火力発電由来」は条件次第、「資源採掘や廃棄」はCO2とは別の物差しで見るべき課題です。

ネット上の主張は、この3つが混ざったまま語られがちです。「電池製造でCO2が多い。しかもリチウム採掘で水も使う。だからEVは環境に悪い」という文章は、一見筋が通っているように見えます。しかし、CO2の量と水の使用量は単位も影響の出方もまったく違う指標です。一つの結論にまとめると、どこが本当の問題なのかが見えなくなります。

車購入検討者

「環境に悪い」って、具体的には何が悪いんですか?いろいろ言われすぎて混乱してます…。

自動車専門家 Mr.K

まずは不安を「CO2の話」と「それ以外の話」に分けましょう。分けるだけで、どの情報を信じればいいかがかなり整理されますよ。

「走行時ゼロ排出」と「ライフサイクルでゼロ」は別の話

EVは走行中に排気ガスを出しませんが、ライフサイクル全体で排出がゼロになるわけではありません。車体や電池を作るとき、充電する電気を発電するとき、廃棄やリサイクルのときにも排出は発生します。

EVとガソリン車の比較で数字が食い違って見える最大の原因は、「どこからどこまでを数えたか(評価範囲)」が資料ごとに違うことです。代表的な3つの範囲を整理しておきます。

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評価範囲数える範囲EVの値ガソリン車の値
Tank-to-Wheel(TtW)走行時の排出だけゼロ燃やしたガソリン分
Well-to-Wheel(WtW)燃料・電力の製造+走行発電時の排出が乗る原油採掘・精製分が乗る
LCA(ライフサイクル評価)素材・車両・電池の製造〜走行〜廃棄電池製造分が大きく乗る車両製造分が乗る

「EVはゼロエミッション」という表現はTank-to-Wheelの話です。「EVはむしろCO2が多い」という主張は、製造段階だけを切り出しているケースが少なくありません。EVとガソリン車を比べるときは、まずその数字がどの範囲の話かを確認してください。ここが意外と盲点です。

用語補足:LCA・Well-to-Wheel・Tank-to-Wheelとは

LCA(Life Cycle Assessment)は、製品の原料採掘から製造、使用、廃棄までの環境負荷を合計して評価する手法です。Well-to-Wheelは「井戸(油田・発電所)から車輪まで」、つまり燃料や電気をつくる段階と走行段階を合わせた範囲です。Tank-to-Wheelは「タンク(バッテリー)から車輪まで」で、走行時の排出だけを数えます。

なお、研究資料ではCO2だけでなくメタンなど他の温室効果ガスも換算して合算した「GHG(温室効果ガス)」「CO2eq(CO2換算)」という単位がよく使われます。本記事ではわかりやすさを優先して「CO2」と表記する場面がありますが、出典がGHG・CO2eqの場合はその単位をそのまま記載しています。

電池製造のCO2が多いのは事実。ただし「だからEVが悪い」にはならない

EVは製造段階の温室効果ガス排出がガソリン車より多くなります。これは複数の研究で共通する事実です。ただし、多くの研究は、その差を走行段階で取り返す前提で比較しています。問題は「多いかどうか」ではなく「何km走れば取り返せるか」です。

日本の研究機関である電力中央研究所の研究資料「電動車と内燃機関車の製造と走行に伴うGHG排出量評価」(2021年6月)は、EVの製造に伴うGHG排出量のうち4割強がリチウムイオン電池の製造によるものと分析しています。欧州の最新データでも傾向は同じです。ICCTの2025年7月のレポートによると、EUで2025年に販売された中型EVの製造時排出はガソリン車より約40%多いとされています。

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出典(公表年)対象・条件製造時の差取り返すまで
電力中央研究所(2021年)日本・EV電池40kWh・生涯10万kmEV製造分の4割強が電池本記事で後ほど試算
ICCT(2025年)EU・2025年販売の中型車・生涯24万kmEVはガソリン車より約40%多い約1.7万km(1〜2年)

2つの資料を読み比べると、「EVは製造で余分に排出する」という点は共通しています。一方で、取り返すまでの距離は、どの国の電気で走るか、比べる相手がどんな車かで大きく変わります。ICCTの「約1.7万km」は再エネ比率が高まっているEUの電源構成を前提にした数字で、日本にはそのまま当てはまりません。日本の条件での試算は、次の章で詳しく見ていきます。

採掘・水・廃棄は、CO2とは別の物差しで見る

リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛といった電池材料の採掘・精錬には、CO2とは別の環境課題があります。エネルギーの大量消費、水の使用(塩湖のかん水からリチウムを取り出す方式など)、生態系や地域社会への影響です。これらはCO2の大小とは独立して評価する必要があります。

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環境負荷の種類EVでの主な論点確認できる対策・動き
CO2(温室効果ガス)電池製造・発電時の排出電源の低炭素化、電池製造の再エネ化
資源リチウム・ニッケル・コバルト等の需要増リサイクル、ニッケル・コバルトを使わないLFP電池
水・生態系採掘・精錬地域での水使用や土地改変サプライチェーンの情報開示(地域差が大きい)
廃棄物使用済み電池の処理リユース(再利用)・リサイクルの制度化

資源と廃棄については、制度と事業の両面で動きが具体化しています。EUの電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)は、EV用電池のカーボンフットプリント申告や、使用済み電池からのリチウム回収目標(2027年末までに50%、2031年末までに80%)を段階的に義務化しています。IEAの報告書(2024年12月)は、リサイクルが広がれば2050年のリチウム・ニッケル需要を約25%、コバルト需要を約40%減らせる可能性があると試算しています。

日本国内の例では、日産自動車と住友商事の合弁会社フォーアールエナジーが、福島県浪江町の事業所で日産リーフの使用済みバッテリーを分解・性能分析し、再製品化しています。「使い終わった電池はすべてゴミになる」というイメージとは、実態がかなり違います。

ただし、日本全体でEV用電池のリサイクル率がどれくらいかを示す確実な公表データは、筆者が確認した範囲では見当たりませんでした。そのため本記事では数字を断定しません。資源・水・廃棄の問題は「解決済み」ではなく、「CO2とは別枠で改善が進んでいる課題」と捉えるのが現時点での妥当な見方です。

日本の電源で走るEVは、ガソリン車・HVより何km先でCO2が少なくなるのか

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日本の条件に近い研究では、火力発電の比率が高い電源でも、生涯10万km走ればEVの合計GHGはガソリン車やHVより少なくなります。ただしHVとの差は、電源の内容、電池容量、HVの燃費しだいで大きく縮みます。ここが「EVは本当に環境にやさしいのか」という疑問のいちばんの核心です。

初心者ユーザー

でも日本って火力発電が多いんですよね?火力の電気で充電したら、結局意味がないんじゃないですか?

自動車専門家 Mr.K

その疑問にちょうど答えてくれる日本の研究があります。火力発電の比率を変えて比べたデータなので、表で確認してみましょう。

電力中央研究所の火力比率別比較(1台・10万km)

電力中央研究所の分析では、火力発電比率90%という厳しい条件でも、EV(電池40kWh)の1台あたりGHGは22.6tで、ガソリン車の34.8t、HVの28.3tより少ないという結果でした。火力比率が45%なら16.2t、0%なら9.6tまで下がります。

なお、この比較は製造と走行に伴う排出の合計で、電池交換・修理・廃棄の排出は含まれていません。

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事業用火力発電比率ガソリン車HVPHVEV(40kWh)EVのガソリン車比
火力90%(2015年の電源構成相当)34.8t28.3t25.9t22.6t35%減
火力45%33.0t26.5t21.5t16.2t51%減
火力0%31.2t24.6t16.9t9.6t69%減

出典:電力中央研究所 研究資料 Y21503(2021年6月)。単位はt-CO2eq(1台あたり)。前提は生涯走行距離10万km、燃費はガソリン車12.0km/L・HV17.0km/L、EVの電費7.0km/kWh(いずれもカタログ値ではなく実態寄りの想定)です。

内訳も見ておきましょう。火力90%のケースでは、製造段階(素材・部品・車両製造、物流)の排出はガソリン車9.0t、HV10.1t、EV12.1tで、EVが最も多くなっています。一方、走行段階の直接排出はガソリン車19.4t、HV13.7tに対し、EVは0です。EVには発電分として燃料・電力製造10.5tが乗りますが、それでも合計では逆転します。

では、今の日本の電気はどのケースに近いのでしょうか。資源エネルギー庁の「2024年度エネルギー需給実績(速報)」(2025年12月公表)によると、発電電力量に占める割合は火力(バイオマス除く)67.5%、再エネ(水力含む)23.0%、原子力9.4%でした。つまり現在の日本は、表の「火力90%」と「火力45%」のあいだに位置していると読み取れます(筆者の読み解き)。

この研究には、もう一つ見落とされやすいポイントがあります。火力発電比率が下がると、充電由来の排出だけでなく、ガソリン車やHVも含めた車両製造時の排出も減るという点です。工場で使う電気がクリーンになれば、どの車も作るときのCO2が減ります。「電気がクリーンになって得をするのはEVだけ」というわけではありません。

補足:この研究の分析手法(産業連関モデル)について

電力中央研究所の分析は「産業連関モデル」という手法を使っています。車1台を作るために、鉄鋼・化学・電力など関連する産業全体へどれだけ生産が波及し、そこでどれだけ排出が生じるかを積み上げる方法です。特定の車種や工場の実測値ではなく、日本の産業構造を前提にした平均的な評価である点に注意してください。また、報告書自身も「電池容量、排出原単位、燃費、電費、生涯走行距離といった前提条件の設定次第で、どの車種が環境面で優位になるかが変わり得る」と明記しています。

IEA・ICCTの数値は、日本にそのまま当てはめられない

海外の有力機関も「EVのほうがライフサイクルのCO2は少ない」という結論を出しています。ただし、国、電源構成、車格、生涯走行距離の前提が日本とは違うため、「欧州で73%減」をそのまま日本のEVに当てはめるのは誤りです。

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出典地域・年車格・走行距離EVの結果(同条件のガソリン車比)
IEA Global EV Outlook 2024世界平均・2023年中型・15年約20万km約半分
同上(地域別)米国/中国/インド同上約65%減/約40%減/約20%減
ICCT(2025年7月)EU・2025年販売中型(SUV除く)・20年24万km73%減(HVは20%減、PHVは30%減)
電力中央研究所(2021年)日本・火力比率別EV電池40kWh・10万km35〜69%減(火力90%〜0%)

表を見ると、IEAの地域別データで差の大きさがはっきり分かれていることがわかります。石炭火力の比率が高いインドでは、EVの削減幅は約20%にとどまります。つまり、EVの環境性能を最も大きく左右するのは「どの国の電気で走るか」です。

日本は、インドや中国ほど石炭に頼ってはいませんが、EUほど再エネ比率が高いわけでもありません。そのため、日本で判断するなら、海外の数字よりも電力中央研究所の「火力90%」と「火力45%」の2条件を目安にするのが現実的だと筆者は考えています。

国内の業界団体の見解も紹介しておきます。日本自動車工業会(JAMA)は「再生可能エネルギーの供給が少ない日本では、ライフサイクル全体でみると、現時点ではHV、EV、FCVのCO2排出量はほぼ同じ」との見解をウェブサイトに掲載しています。ただし、同ページでは比較の前提条件(車格や走行距離など)が示されていません。そのため本記事では、業界団体の見解の一つとして紹介するにとどめます。

筆者試算:電池容量と相手(HV)で、逆転までの距離はこう変わる

電力中央研究所の数値から逆算すると、火力90%の条件で、EV(40kWh)がガソリン車のCO2を逆転するのは約2万km、HV(燃費17km/L)を逆転するのは約2.6万kmです。ところが、比べる相手を燃費25km/LのHVに置き換えると、逆転距離は約10.7万kmまで延びます。

この試算をしたのは、読み比べの途中で疑問が浮かんだからです。研究で使われたHVの燃費17km/Lは、実態寄りとはいえ、最近の高効率ハイブリッドと比べるとやや控えめな値です。そこで、HVの燃費だけを変えると結論がどう動くのかを計算してみました。結果は表のとおりで、条件を一つ変えるだけで、数字の印象はかなり変わります。

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【筆者試算・参考値】
電源・EV電池
対ガソリン車
(12km/L)
対HV
(17km/L)
対HV
(25km/L・仮定)
火力90%・EV 40kWh約2.0万km約2.6万km約10.7万km
火力45%・EV 40kWh約1.3万km約1.4万km約2.7万km
火力90%・EV 62kWh—約6.2万km約25万km(10万km以内では逆転しない)
火力45%・EV 62kWh—約3.6万km約6.8万km

試算の方法:電力中央研究所 Y21503の1台あたり内訳(製造/走行/燃料・電力製造、10万km)から、製造時の差を「1kmあたりの走行系排出の差」で割って逆転距離を出しました。HV 25km/Lは、現行の高効率HVを想定した筆者の仮定です(同研究のHV値を燃費比で換算)。62kWhのEVの値は、同研究が示した削減率から製造時排出を逆算しています。電池交換・廃棄・リサイクルは含んでいません。あくまで条件による違いを確かめるための参考値で、特定の車種の実際の値を示すものではありません。

年間8,000km(同研究が2030年推計で使った想定)で換算すると、約10.7万kmは13年以上にあたります。火力比率の高い電源で、大きな電池のEVと燃費の良いHVを比べた場合、「乗り続けてもなかなか逆転しない」というケースは、計算上は十分にあり得るということです。

参考として、走行1kmあたりの目安も計算しておきます。ガソリンの排出係数2.29kg-CO2/L(環境省 算定・報告・公表制度)を使うと、燃費12km/Lのガソリン車は約191g/km、17km/LのHVは約135g/km、25km/LのHVは約92g/kmです。EVは全国平均の排出係数0.423kg-CO2/kWhを使うと、電費7km/kWhで約60g/km、5km/kWhで約85g/kmになります。

ただし、この1kmあたりの数字は評価範囲がそろっていません。ガソリン車側は燃やした分だけ(Tank-to-Wheel)で、原油の採掘や精製の排出を含みません。EV側は発電時の排出を含みます。電力中央研究所の試算では、燃料製造分はガソリン車で走行分の約3割に相当します。この数字だけを並べて「EVは3分の1」と結論づけるのは避けてください。

電池容量・車格・走行距離が違えば、EVの環境メリットは大きく動く

電池が大きいほど製造時の負荷が増え、環境メリットが出るまでの距離は延びます。同じEVでも、小型・中容量のモデルと大型・大容量のモデルでは結論が変わるので、「EVかどうか」ではなく「どのEVか」で考える必要があります。

電池を62kWhに増やすと、EVの削減率は火力高でPHV並みに下がる

電力中央研究所の分析では、EVの電池を40kWhから62kWhに増やすと(他の条件は同じ)、ガソリン車に対する削減率は火力90%で35%→27%、火力45%で51%→43%、火力0%で69%→63%に下がります。火力90%の条件では、PHV(プラグインハイブリッド車)とほぼ同じ水準です。

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事業用火力発電比率EV 40kWhEV 62kWh
火力90%35%減27%減(PHV並み)
火力45%51%減43%減
火力0%69%減63%減

出典:電力中央研究所 研究資料 Y21503(2021年6月)。数値はガソリン車に対する1台あたりGHG(生涯10万km)の削減率。電池容量以外の前提は同一です。

航続距離の長いEVほど安心感はありますが、その分の電池は製造時のCO2として最初に背負うことになります。毎日の通勤や買い物が中心で、長距離はたまにしか走らない人が大容量モデルを選ぶと、環境面では「使わない電池の分まで負荷を抱える」形になりかねません。カタログで候補車の電池容量(kWh)を確認し、自分の使い方に対して大きすぎないかをチェックしておきましょう。

電池の中身と作る国でも差がつく:NMCとLFP、日本・中国の原単位

電池1kWhを作るときの排出量(排出原単位)は、電池の種類と製造国によって変わります。メーカーの公開資料では、同じ車種でも電池の種類によって電池パック製造時の排出が2倍以上違う例もあります。

ICCT(2025年)が米アルゴンヌ国立研究所のモデル(R&D GREET 2024)をもとに整理した電池製造の排出原単位は、次のとおりです。

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電池の種類欧州米国韓国日本中国
NMC622(三元系)6064737580
LFP(リン酸鉄系)5257636669

単位:kg CO2e/kWh。出典:ICCT(2025年7月)。モデルによる推計値であり、特定メーカー・特定工場の実測値ではありません。

この原単位を使うと、たとえば日本製NMC電池60kWhの製造時排出は、計算上約4.5t(75×60kWh)です。ICCTは、EUの中型EVの平均電池容量53.4kWhで電池製造約3.9t CO2eと見積もっています。

メーカーの公開例としては、ボルボEX30のカーボンフットプリントレポート(ISO 14067準拠・20万km)がわかりやすい資料です。電池パック製造の排出はNMC 69kWhで7.8t、LFP 51kWhで3.5tと、2倍以上の差がありました。ライフサイクル全体でも、LFP仕様はNMC仕様より平均16%低いとされています。

同じレポートには、充電する電気による差も示されています。NMC仕様の20万km合計は、世界平均の電源で36t、欧州の電源で28t、風力発電の電気で22tでした。電池の種類と充電する電気の両方で、ここまで差がつきます。なお、このレポートはEX30と同型ガソリン車の比較をしていないため、本記事でもガソリン車との比較には使っていません。

補足:NMC電池とLFP電池の違い/ISO 14067とは

NMC(三元系)は正極にニッケル・マンガン・コバルトを使うリチウムイオン電池で、エネルギー密度が高く航続距離を伸ばしやすいのが特徴です。LFP(リン酸鉄リチウム)はニッケルやコバルトを使わない電池で、エネルギー密度ではNMCに劣るものの、製造時の排出が比較的少なく、資源面の制約も小さいとされています。どちらの電池を積んでいるかは、メーカー公式の主要諸元やプレスリリースで確認できる場合があります。

ISO 14067は、製品のカーボンフットプリント(ライフサイクルの温室効果ガス排出量)を算定するための国際規格です。メーカーのLCAレポートがこの規格に準拠しているかどうかは、数値の信頼性を判断する手がかりになります。

大気・粒子・廃棄まで見ると、EVのメリットとデメリットは別の顔をする

CO2以外の環境影響では、EVは走行時に排気ガス(NOxや排気由来の粒子状物質)を出さないため、都市部や沿道の大気環境には明確なメリットがあります。一方、タイヤや路面、ブレーキがすり減って出る粉じん(非排気粒子)は、EVでも残ります。

OECDの報告書「Non-exhaust Particulate Emissions from Road Transport」(2020年)では、EVは回生ブレーキによってブレーキの摩耗が減る一方、車重が重いとタイヤ由来の粉じんは増える可能性があると整理されています。重い大容量EVほどこの影響は大きくなりやすいため、ここでも「車格と電池容量」が効いてきます。

車購入検討者

電池の寿命も気になります。途中で交換になったら、また作るときのCO2が出ちゃいますよね?

自動車専門家 Mr.K

鋭いですね。そこは研究によって見方が分かれています。確認できる範囲だけお伝えしますね。

ICCT(2025年)は、試験データと実走行データからリチウムイオン電池は車両の寿命より長持ちする傾向があると整理しています。NMC電池は、満充電から使い切る充放電を3,000〜5,000回相当くり返しても、容量80%以上を維持した試験例があるとのことです。

一方、日本の自動車メーカーの研究者らによるKawamoto et al.(2019年、学術誌Sustainability)は、生涯走行距離が16万kmを超える場合は電池交換分の排出を加えるべきだと指摘しました。2019年の研究なので、2026年時点の電池にそのまま当てはめることはできません。ただ、「長く・たくさん走る人ほど電池の劣化と交換の可能性も含めて考える」という視点は持っておいて損はありません。

CO2、大気汚染、資源、廃棄は、それぞれ別の物差しです。どれを重く見るかは、住んでいる地域や車の使い方、読者の方それぞれの価値観で変わります。大切なのは、一つの物差しの結果だけで「EVは良い」「EVは悪い」と決めつけないことです。

V2Hと太陽光は、EVの製造時排出を消す技術ではない

V2H(Vehicle to Home)は、EVの電池にためた電気を家庭で使う仕組みです。ただし、電池を製造したときに出たCO2を消す技術ではありません。V2Hが役立つのは、「走行や家庭で使う電気を太陽光由来に寄せる」「電気の使い方を最適化する」「停電時の非常用電源にする」の3点で、それぞれ価値の中身が違います。

V2Hでできることを3つに分ける

メーカー公式の整理によると、V2Hでできることは「太陽光の電気の自家消費」「ピークシフト」「停電時の給電」の3つです。日産公式のV2H解説ページでは、日産リーフのバッテリーで一般家庭の約2〜4日分の電力をまかなえると案内しています(1日約12kWhの使用を想定。使用環境・季節で増減)。

  • 自家消費:昼に太陽光で発電した電気をEVにため、夜に家で使う
  • ピークシフト:電気料金の安い夜間に充電し、昼間に家で使う
  • 非常用電源:停電時に家庭や避難所へ給電する

いずれもメーカーが公表している機能の説明で、実際の効果は家庭の電力使用量や設備によって変わります。なお、筆者自身はV2Hを導入していないため、使用感ではなく、公開情報から読み取れる仕組みと環境面での位置づけを整理しています。

CO2削減に効く場合と、電気代・防災に効く場合は別物

V2HがCO2削減に効くのは、主に自宅に太陽光発電がある場合です。走行や家庭で使う電気を太陽光由来に寄せられるため、系統電力(電力会社から買う電気)の使用量が減ります。太陽光がない家庭で夜間の電気を昼に回すのは、電気代とピークシフトの効果であって、CO2削減とは別の話です。

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V2Hの使い方主に効くもの前提条件CO2削減との関係
太陽光の自家消費CO2・電気代自宅に太陽光発電走行・家庭の電気が太陽光由来になる分、減らす方向
ピークシフト電気代・電力需給時間帯別の料金プラン直接のCO2削減とは別
非常用電源防災・安心V2H機器の設置CO2削減とは別
(共通)電池製造時の排出は減らない
初心者ユーザー

じゃあ、V2Hを入れればEVの環境負荷は帳消しになるってことですか?

自動車専門家 Mr.K

そこが意外と盲点です。電池を作ったときの分は、V2Hを入れても消えません。V2Hで変えられるのは「これから使う電気」のほうなんです。

V2Hを検討するときは、まず「CO2を減らしたいのか」「電気代を下げたいのか」「停電に備えたいのか」を決めておくと、判断がぶれません。機器代や工事費、補助金の扱いは環境性能とは別のテーマなので、本記事では深追いしません。費用面は、当サイトの「V2H 補助金 2026」の記事もあわせて確認してください。

太陽光がない家庭は、「充電電力の選び方」で差をつける

自宅に太陽光発電がない場合でも、契約する電力会社や料金メニューを見直せば、充電する電気のCO2を減らせます。電気1kWhあたりのCO2(排出係数)は電力会社やメニューによって異なり、再エネ由来のメニューには排出係数がゼロに近いものもあります。

環境省・経済産業省が公表する電気事業者別排出係数(令和7年度提出用)では、全国平均係数は0.423kg-CO2/kWhです。ここまでの試算で使ってきたEVの1kmあたりの値(電費7km/kWhで約60g/km)は、この全国平均を前提にしています。排出係数の低いメニューで充電すれば、走行段階の排出はそれだけ下がります。

EVを買うかどうかを決める前に、今の電気料金明細や契約電力会社のサイトで、契約中のメニューの排出係数を確認してみてください。車両選びと同じくらい、「何の電気で走るか」が環境面の結果を左右します。

環境面から選ぶEV・HV・ガソリン車:自分の条件で判断する4つの軸

環境面から選ぶEV・HV・ガソリン車:自分の条件で判断する4つの軸

環境面だけで見ると、年間走行距離が多く、電池容量が大きすぎず、低炭素な電気で充電できる人ほどEVが有利です。反対の条件がそろう場合は、燃費の良いHVのほうが合理的な選択になり得ます。最終的には、価格・航続距離・充電環境・維持費も含めて判断しましょう。

走行距離・電源・車格・電池容量で見る、EV/HV/ガソリン車の目安表

ここまでのデータと筆者試算をもとに、条件別の目安を表にまとめました。環境面(CO2)での向き不向きの目安であり、個別車種の実測値や結果を保証するものではありません。

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あなたの条件環境面での目安理由(本記事の根拠)
走行距離が多い+小〜中容量EV+低炭素な電気(太陽光・再エネメニュー)EVが有利になりやすい製造差を早く取り返せる。火力が低いほど削減幅が大きい
走行距離が多い+全国平均並みの電気EVが有利になりやすいが、HVとの差は小さめ火力90%でもガソリン車・HV(17km/L)より少ない。ただし高効率HVとの差は縮む
走行距離が少ない+大容量EV高効率HVと同等か、HVが有利なこともある62kWh・火力90%では、25km/LのHVを10万km以内に逆転しない試算
自宅充電が難しい・長距離中心HV・PHVも有力PHVはIEAでガソリン車比約30%減(電動走行比率40%想定)。充電しないとPHVの効果は出にくい
古いガソリン車からの乗り換えEV・HVどちらでも大きく減らせるどの研究でもガソリン車との差は大きい

この表で一番伝えたいのは、「比べる相手」で答えが変わるということです。10年以上前の燃費の悪いガソリン車から乗り換えるなら、EVでもHVでもCO2は大きく減らせます。一方で、すでに燃費の良いHVに乗っていて、年間走行距離も少ない人がEVへ乗り換える場合は、環境面のメリットは小さく、場合によっては逆転しないこともあります。

環境性能だけで決めない:価格・航続距離・充電環境・維持費のチェックリスト

環境面で合理的な選択でも、自宅で充電できなかったり、走り方に合わなかったりすれば、乗り換えへの満足度は下がります。EVの環境メリットは「無理なく乗り続けられること」が前提です。購入前に、次の項目を確認しておきましょう。

  • 自宅(戸建て・集合住宅)で普通充電できるか、設置の許可や工事は可能か
  • 年間走行距離と、何年乗るつもりか(逆転距離に届くか)
  • 候補車の電池容量(kWh)と電池の種類が、自分の使い方に対して過大でないか
  • 普段の最長移動距離に対して、冬場も含めて航続距離に余裕があるか
  • 車両価格・補助金・電気代・保険・税金を含めた維持費と、手放すときのリセール

補助金の金額や条件は年度によって変わります。EVやPHVを検討している方は、当サイトの「EV 補助金 2026」「PHEV 補助金 東京都 2026」の記事で最新の条件も確認しておくと安心です。

自動車専門家 Mr.K

車は感情だけで買うと後悔します。環境性能も「なんとなくエコ」ではなく、自分の走行距離と電気で数字を確かめてから選びましょう。維持費も必ずチェックしてくださいね。

候補車を絞って、次の一歩へ進む

自分の条件が整理できたら、次の一歩は「候補車の比較」と「今の愛車の価値の確認」です。環境面の目安でEV・HV・ガソリン車の方向性を決め、電池容量や燃費・電費の数字を見ながら候補を2〜3台に絞り込みましょう。

EV・HV・ガソリン車のどれにするか迷っているなら、新車・中古車の比較や口コミを横断して探せる車選びドットコムで、候補車の電池容量や燃費、価格帯を並べてみると判断しやすくなります。

候補が決まったら、ディーラーで試乗と見積もりを取り、充電設備の設置可否もその場で相談しておくとスムーズです。乗り換えの予算を組むなら、今の愛車がいくらで売れるかも早めに把握しておきましょう。カービューなら複数社の買取相場をまとめて確認できるので、下取り額と比べる材料になります。

まとめ:「EVは環境に悪い?」への答えは、条件を揃えたときに見えてくる

まとめ:「EVは環境に悪い?」への答えは、条件を揃えたときに見えてくる

「電気自動車は環境に悪い」という主張には、一部の根拠があります。EVは駆動用バッテリーの製造で排出が増え、資源採掘には水や生態系への影響もあります。充電する電気が火力中心なら、走行段階の間接排出も増えます。

ただし、日本の条件に近い電力中央研究所の研究では、火力90%の電源でも生涯10万kmでEV(40kWh)の排出はガソリン車より35%少ない結果でした。結論を分けるのは「EVかどうか」ではなく、電源・走行距離・電池容量・比べる相手です。

  • 電池容量:大きいほど製造時の負荷が増え、メリットが出るまでの距離が延びる
  • 年間走行距離:多いほど製造差を早く取り返せる
  • 充電する電気:太陽光や排出係数の低いメニューほど有利。V2Hは製造分を消さない
  • 比べる相手:古いガソリン車なら差は大きく、高効率HVなら差は小さい

なお、本記事で紹介した電力中央研究所の数値は電池交換・廃棄を含みません。筆者試算は条件の違いを確かめるための参考値です。IEA・ICCTの数値は世界平均やEUの前提に基づいています。新しい研究や電源構成の変化で数字は動くため、購入の時点で最新の公式情報もあわせて確認してください。

この4つの軸を自分の条件に当てはめれば、「EVは環境に良いのか悪いのか」というモヤモヤは、「自分の使い方ならどれが合理的か」という具体的な問いに変わります。その答えが出たら、候補車の比較と試乗へ進んでみてください。

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