地震で「車で逃げてはいけない」と言われる本当の理由と例外を解説

地震で「車で逃げてはいけない」と言われる本当の理由と例外を解説

「大きな地震が起きたら、家族を車に乗せて、すぐに遠くへ逃げた方が安全なのではないか」。運転免許を持っている人ほど、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。歩くより速い、荷物も運べる、雨風もしのげる。平常時の感覚で考えれば、車は最も頼りになる移動手段です。

ところが、過去の震災の記録と公的機関の資料を突き合わせていくと、その直感がきれいに裏返る場面があることが見えてきます。同じ判断をした車が一斉に道路へ出た結果、渋滞が発生し、避難そのものが遅れた事例が公的資料に残されているのです。

先に結論をお伝えします。地震のときに「車で逃げてはいけない」と言われる最大の理由は、多数の車が同時に動き出すことで渋滞や事故が起こり、徒歩で避難する人や、救急車・消防車といった緊急車両の通行を妨げてしまうおそれがあるからです。結果として、自分の避難も、周囲の人の避難も遅れてしまう。だからこそ、原則としては徒歩避難が優先されます。

ただし、この記事は「絶対に車を使うな」と言い切るための記事ではありません。津波から一刻も早く離れなければならない場合、高齢者・障害のある方・乳幼児など徒歩避難が現実的に難しい家族がいる場合、そして自治体が地域の事情を踏まえて車避難を前提とした計画を定めている場合など、車を使わざるを得ない状況は確かに存在します。大切なのは、原則と例外を混ぜずに理解し、地震が起きてからではなく、今のうちに自分の地域と家族に合った避難方法を決めておくことです。

この記事でわかること!
  • 「地震のときは車で逃げてはいけない」と言われる本当の理由(渋滞・緊急車両の妨げ)
  • 運転中に地震が起きたときの安全な停止方法と、車を置いて避難するときの正しい手順
  • 津波が迫っているときに徒歩避難が優先される理由と、車避難が認められる可能性がある例外
  • 車中避難の危険性と、車に備えておきたい防災用品

なお本記事は、警察庁・内閣府防災情報・気象庁・国土交通省・JAFなど公的機関が公開している情報を横断的に照らし合わせ、Premium Cars Life編集長のMr.Kが整理した内容です。筆者が実際に被災した体験を書いたものではなく、公開資料を調べて分かったことをまとめています。避難の可否や交通規制の判断は、必ずお住まいの自治体および公的機関の指示に従ってください。

目次

結論:地震のとき車で逃げてはいけないと言われる最大の理由

結論:地震のとき車で逃げてはいけないと言われる最大の理由

結論から申し上げます。地震のときに車での避難が原則として勧められないのは、多数の車が一斉に避難のため動き出すことで渋滞と事故が発生し、徒歩避難者や緊急車両の通行を妨げるおそれがあるためです。理由は「車が危ないから」ではありません。「車が集まると、道路という共有インフラが機能しなくなるから」です。ここが意外と盲点なんです。

車1台だけが道路を走っているなら、車は間違いなく速い移動手段です。しかし地震直後は、あなたと同じ「早く逃げたい」という判断を、同じ地域の何百台、何千台という車が同時に下します。道路の容量は平常時のまま、いやむしろ道路の損壊や信号機の停止によって平常時より小さくなっているのに、そこへ需要だけが一気に集中する。この需給の逆転が、渋滞という形で現れます。

そして渋滞は、単に「遅くなる」だけでは終わりません。列に入ってしまえば自分の意思では抜け出せず、道路が塞がることで救急車や消防車も進めなくなり、路肩を歩いて逃げようとする人の動線まで圧迫されます。自分の避難の遅れが、そのまま他人の避難と救助の遅れに直結してしまうのが、車避難という選択の本質的な難しさです。

車購入検討者

でも、車の方が歩くより早いんじゃないですか?高齢の家族もいますし、荷物だってありますし…。

自動車専門家 Mr.K

その感覚はとても自然ですし、間違いではありません。ただ、地震の直後に限っては、そうとは限らないんですよ。冷静に事実を見ていくと「速いはずの車が、一番動けなくなる」という逆転が起きます。次の章で、その仕組みを順を追って見ていきましょう。

今回この記事を書くにあたり、警察庁の「大地震が発生したときに運転者がとるべき措置」、内閣府防災情報の震災記録、気象庁の津波防災解説、国土交通省の緊急輸送道路に関する資料、そしてJAFの運転者向け解説を並べて読み比べました。個々の資料は目的も読者も異なりますが、並べてみると「渋滞 → 緊急車両の通行妨害 → 避難と救助の遅れ」という同じ因果の連鎖が、それぞれ別の角度から語られていることが分かります。この記事は、その連鎖を1本の線としてつなぎ直したものです。

なお、繰り返しになりますが「どの地震でも、どの地域でも、絶対に車を使ってはいけない」という一律の断定はしません。この後の章で、運転中に地震が起きた場合、車を置いて避難する場合、津波が迫っている場合、車中避難を選ぶ場合を分けて解説し、車の使用を検討せざるを得ない例外についても正面から扱います。

なぜ車避難は渋滞・事故・緊急車両の妨げを招くのか(因果関係の解説)

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なぜ車避難は渋滞・事故・緊急車両の妨げを招くのか(因果関係の解説)

「渋滞するから危ない」という説明は、よく目にする割に、なぜ危ないのかまで踏み込んだものが少ないと感じます。ここでは、渋滞・緊急車両・道路そのものという3つの角度から、車避難のリスクを分解していきます。

渋滞が避難そのものを遅らせる仕組み

最初に押さえておきたいのは、災害時の渋滞は「時間のロス」ではなく「退路の消失」を意味するという点です。

内閣府防災情報のページ「避難に車を使うなの意味 渋滞で実感」には、東日本大震災の被災者の証言として、避難のために車で走り出したところ道路がみるみる渋滞していった、という趣旨の記録が掲載されています。多くの人が同時に車で避難したことで交通渋滞が発生したという事実が、当事者の言葉として残されているわけです(出典:内閣府 防災情報のページ)。

注目すべきなのは、当時、防災行政無線などを通じて「車は使わないでください」という呼びかけが行われていたにもかかわらず、車での避難が集中したという点です。つまりこれは、知識がなかったから起きた出来事ではありません。「自分ひとりくらいなら大丈夫だろう」という判断が同時多発的に重なった結果として渋滞が生まれた、という構造的な問題なのです。

そして渋滞に巻き込まれた車は、前にも後ろにも動けません。歩いていれば路地に入る、階段を上がる、建物に入るという選択肢がありますが、渋滞の列に入った車にはそれができない。避難の完了が遅れ、津波や火災といった危険から逃げ切れなくなるリスクが高まります。

この経験を踏まえ、津波避難時の車の使用に関する方針にも見直しが入っています。中央防災会議の津波避難対策検討ワーキンググループの資料によれば、東日本大震災以前は「原則として車は使用しない(禁止)」という考え方が中心でしたが、震災後は「原則禁止としつつ、やむを得ない場合は例外を認める」という整理に改められました。高齢者や歩行が困難な方など、徒歩避難が現実的でない人が存在するという現実に向き合った結果です(出典:内閣府 中央防災会議 津波避難対策検討ワーキンググループ資料)。

ここが誤解されやすいポイント

「原則禁止」と「絶対禁止」は違います。公的な方針は、車避難を一律に封じているのではなく、渋滞を最小化しながら、徒歩避難が難しい人の避難も成立させるにはどうすべきか、という難しい両立を目指しています。この記事も同じ立場を取ります。

緊急車両・救援車両の通行を妨げる問題

2つ目の理由は、道路が「自分の避難のための道」であると同時に「他人の命を救うための道」でもある、という点にあります。

国土交通省は、災害発生直後の避難・救急・救助・消火活動、および災害応急対策に必要な物資の輸送を確保するため、国や都道府県が緊急輸送道路を指定していると説明しています。高速道路や主要な国道など、地域の骨格となる道路網が第1次から第3次まで階層的に指定される仕組みです(出典:国土交通省 道路局)。

ここで想像していただきたいのは、避難のために出た一般車両が集中しやすいのは、まさにこの幹線道路だという点です。広くて、まっすぐで、遠くまで行けそうな道を選ぶのは自然な行動です。しかし同じ道を、救急車も、消防車も、警察車両も、支援物資を積んだトラックも通ろうとしています。一般車両の集中は、この緊急輸送道路の機能そのものを損なうおそれがあるのです。

さらに、大規模災害では道路自体が被災します。国土交通省は、倒壊した建物やがれきを応急的に取り除き、段差を修正して救助ルートを開通させる「道路啓開」という作業の必要性を示しています。裏を返せば、地震直後の道路は「啓開しなければ通れないほど傷んでいる可能性がある場所」だということです(出典:国土交通省 道路局)。

なお、交通規制の実施や道路啓開の優先順位は、警察や道路管理者が状況を確認したうえで判断します。個人が「この道なら通れるはずだ」と独自に判断することは避け、現地の指示・規制に従ってください。

信号停止・道路損壊・落下物・液状化など地震直後の道路リスク

3つ目は、車を運転する環境そのものが、平常時と別物になるという問題です。冷静に事実を並べてみましょう。

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地震直後に起こりうること運転への影響
停電による信号機の停止交差点の優先関係が不明確になり、出会い頭の事故リスクが高まる
路面の亀裂・段差・陥没夜間や雨天では発見が遅れ、走行不能・立ち往生につながる
建物・看板・電柱などの倒壊物や落下物進路が塞がれる、走行中に接触するおそれがある
埋立地・河川沿いなどの液状化路面が沈下・隆起し、車両が動けなくなることがある
他車の急停止・放置車両車線が塞がり、渋滞が連鎖的に拡大する

もうひとつ見落とされがちなのが、車内は外の状況が見えにくいという点です。窓を閉めた車内では、防災行政無線の呼びかけも、周囲の人の声も届きにくくなります。前方の数十メートル先で何が起きているかも分かりません。渋滞に入ってから「これはまずい」と気づいても、そのときにはもう引き返せない、という状況が起こり得ます。

渋滞が起き、緊急車両が止まり、道路そのものが傷んでいる。この3つが同時に成立するからこそ、地震直後の車避難は原則として勧められません。あなたが普段使っている通勤路や避難所までのルートに、このリスクがどれだけ当てはまるか。一度、地図を見ながら考えてみてください。

運転中に地震が起きたときの安全な停止方法

運転中に地震が起きたときの安全な停止方法

ここからは状況を切り替えます。「避難の手段として車を使うか」ではなく、「すでに運転している最中に地震が起きた」場合の話です。この2つは混同されがちですが、取るべき行動はまったく別物です。

結論はシンプルです。急ハンドルと急ブレーキを避け、ハザードランプを点灯して周囲に注意を促しながら、できるだけ安全な方法で道路の左側に停止させる。これが警察庁が示す運転者の措置であり、JAFの解説とも一致しています(出典:警察庁JAF)。

なぜ急停止がいけないのか。理由は、あなたの後ろにも車がいるからです。強い揺れの中で全車両が同時にパニック的な操作をすれば、追突と接触が連鎖します。事故で塞がれた道路は、そのまま緊急車両の通れない道路になります。ここでも「自分の判断が道路全体に波及する」という構図は変わりません。

STEP
急な操作をせず、ハザードランプを点灯する

まずハザードランプで「異常が起きている」と後続車に知らせます。急ブレーキ・急ハンドルは避け、アクセルを緩めて徐々に減速していきます。

STEP
周囲を確認しながら道路の左側へ寄せて停止する

後続車と対向車の動きを見ながら、できるだけ安全な方法で道路の左側に停止させます。慌てて路肩に飛び込むのではなく、周囲に自分の意図を伝えながら寄せるイメージです。

STEP
エンジンを止め、揺れが収まるまで車内で待つ

停車したらエンジンを止めます。揺れている最中に車外へ飛び出すと、落下物や他車との接触の危険があります。JAFも、揺れが収まるまでは車内で待機するよう案内しています。

STEP
カーラジオ等で地震情報・交通情報を確認する

警察庁は、停止後にカーラジオなどで地震情報・交通情報を確認し、その情報や周囲の状況に応じて行動するよう示しています。スマートフォンの緊急速報や自治体の発信も併せて確認してください。

STEP
情報に基づいて「進む・止まる・置いていく」を判断する

運転を継続する場合は、道路の損壊、信号機の作動停止、道路上の障害物などに十分注意します。津波の危険がある地域や、避難が必要な状況では、車を置いて避難する判断も選択肢に入ります(手順は次章)。

停車を避けたい場所

「左に寄せる」といっても、どこでもよいわけではありません。JAFは、崩落や二次被害の危険がある場所への停車を避けるよう注意を促しています。

  • 交差点の中および交差点付近(緊急車両の通行と避難者の横断を妨げる)
  • 法面(のりめん)や崖の下、落石のおそれがある区間
  • トンネルの出入口付近、橋の上や高架の継ぎ目付近
  • ブロック塀・看板・電柱・古い建物のすぐ脇
  • 消火栓や消防車両の進入経路を塞ぐ位置

もうひとつ、意外と知られていないことがあります。走行中は、揺れに気づきにくい場合があるという点です。サスペンションが路面の入力をいなし、エンジン音やロードノイズが伝わってくる車内では、軽い揺れがパンクや路面の荒れと区別しにくいことがあります。特に遮音性の高いプレミアムカーほど、この傾向は強くなります。

だからこそ、揺れそのものより周囲の変化を手がかりにしてください。前を走る車が不自然にふらつく、信号機や電柱が大きく揺れている、歩道の人が一斉に立ち止まる、複数のスマートフォンから緊急速報の音が鳴る。こうしたサインに気づいたら、まずハザードランプ、そして減速です。

次に運転するとき、自分がよく通るルートを思い浮かべてみてください。「この区間で強い揺れがきたら、どこに寄せるか」を一度考えておくだけで、実際の判断速度は大きく変わります。

車を置いて避難するときの手順(駐車位置・エンジン・キー・窓・ドアロック)

車を置いて避難する場面の手順には、平常時の駐車マナーとは正反対になるルールが含まれています。ここは知っているかどうかで行動が変わる部分なので、正確に押さえておきましょう。

警察庁が示す、大地震発生時に車を置いて避難する場合の措置は次のとおりです(出典:警察庁)。

STEP
できるだけ道路外の場所に移動する

駐車場、空き地、施設の敷地など、道路の外に出せるのであればそれが最善です。道路上に車が残らないほど、避難者と緊急車両の通行は確保されます。

STEP
やむを得ず道路上に置く場合は左側に寄せる

道路外に移動できない場合は、道路の左側に寄せて駐車します。車線の中央や交差点付近に残すと、その1台が道路全体を塞ぐ原因になりかねません。

STEP
エンジンを止める

アイドリングのまま離れると、燃料の消費や火災の要因になり得ます。必ずエンジンを止めてから離れてください。

STEP
エンジンキーは付けたままにするか、車内の分かりやすい場所に置く

キーは付けたままにするか、運転席など車内の分かりやすい場所に置きます。ここが平常時の常識と最も食い違う部分です。

STEP
窓を閉め、ドアはロックしない

窓は閉めますが、ドアはロックしません。連絡先のメモを残しておくと、後の移動や引き取りの際に役立ちます。

公式の手順を初めて読んだとき、正直なところ「キーを残して、ロックもしないのか」と戸惑いました。日頃は「施錠は基本」と言われ続けているわけですから、当然の反応だと思います。けれども、このルールには明確な理由があります。

大規模災害の現場では、道路を塞いでいる車を移動させなければ、救助も消火も物資輸送も進まない場面が出てきます。そのとき、施錠されキーもない車は「動かせない鉄の塊」になってしまう。逆にキーがあり、ドアが開けば、必要に応じて安全な場所へ移動させられます。個々の車の防犯より、道路という共有資源の通行を優先する。これが非常時ルールの考え方です。

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項目平常時の駐車大地震で車を置いて避難する場合
駐車位置駐車枠内・迷惑にならない場所できるだけ道路外へ。やむを得ない場合は道路の左側
エンジン停止停止
キー必ず持ち出す付けたまま、または車内の分かりやすい場所に置く
閉める閉める
ドアロック必ず施錠するロックしない
貴重品や車検証はどうすればよい?

ドアをロックしない以上、現金・カード類・スマートフォン・身分証などの貴重品は身につけて避難するのが基本です。車検証や自動車保険証券は、写真に撮ってスマートフォンやクラウドに保存しておくと、後の手続きで役立ちます。避難時に車内を片付けている余裕はありませんので、平常時のうちに「持ち出すもの」と「置いていくもの」を決めておくことをおすすめします。

スマートキーやプッシュスタート車の場合は?

物理的な鍵穴のない車種でも、考え方は同じです。エンジンを止めたうえで、スマートキーを運転席周辺など車内の分かりやすい場所に置き、ドアはロックしないという運用になります。車種によって解錠・施錠の挙動やキーの検知範囲は異なりますので、取扱説明書で自分の車の仕様を一度確認しておくと安心です。

この手順は、覚えていなければ実行できません。逆に言えば、覚えてさえいれば、揺れの直後でも迷わず動けます。「道路外へ、左に寄せて、エンジン停止、キーは残す、窓は閉めてロックしない」。この一文だけでも記憶しておいてください。

津波が迫っているときは徒歩避難が原則な理由

ここで扱うのは、地震一般ではなく津波という、時間との勝負になる災害です。結論を先に述べます。津波災害のおそれがあるときは「徒歩避難」が原則です。

津波が迫っているときは徒歩避難が原則な理由

気象庁は津波防災の解説の中で、津波から命を守るために、強い揺れや長くゆっくりとした揺れを感じたら、警報を待たずにただちに高台や津波避難ビルなど安全な場所へ避難することの重要性を示しています(出典:気象庁)。また、東北地方の自治体が公開している防災資料でも、津波災害のおそれがあるときは徒歩避難が原則であることが繰り返し呼びかけられています(出典:釜石市)。

なぜ徒歩なのか。理由は3つに整理できます。

  • 渋滞に巻き込まれない:徒歩なら列に縛られず、路地・階段・建物の中へ自分の判断で進路を変えられます
  • 道路の被災に左右されにくい:信号機が止まっても、路面に段差ができても、徒歩なら進み続けられる可能性が高くなります
  • 目的地が「遠く」ではなく「高く」だから:津波避難で必要なのは水平方向の距離ではなく、高さです。近くの高台や津波避難ビルへ上がることが最優先になります

3つ目が特に重要です。「車で遠くへ」と考えた瞬間、目的地までの距離が延び、道路を使う時間が長くなります。しかし本当に必要なのは、数百メートル先にある高い場所かもしれません。遠さと高さを取り違えないことが、津波避難では決定的な差になります。

東日本大震災に関しては、自家用車をはじめとする自動車の運行が津波避難時の混乱の一因となり、多くの命が失われたことが公的資料の中で指摘されています。この事実は、車を悪者にするために語られているのではありません。善意で、家族のために、合理的に判断した人たちが、それでも渋滞に捕まったという重い記録として受け止める必要があります。

JAFも、津波警報・注意報を認知したら、車で逃げ切れると過信せず、できるだけ早く海岸から離れ、徒歩でも高台・津波避難ビルへ向かうことを優先するよう案内しています(出典:JAF)。「車で逃げる」という検索をした方に対して、私がこの記事でお伝えしたい核心もここにあります。車に固執しないこと。走り出したあとでも、渋滞に入ったと感じたら車を置いて徒歩に切り替える判断を持っておくこと。これが、車と共に生きる私たちにとっての現実的な備えです。

参考:車が浸水してしまった場合

浸水した車はドアの外側に水圧がかかり、開かなくなることがあります。JAFは、車内外の水位差が小さくなったタイミングであればドアを開けやすくなるとしており、脱出用ハンマーで窓を割る方法も知られています。ただしこれはあくまで最終手段であり、そもそもこの状況に陥らないよう、早い段階で車を離れて高い場所へ向かうことが原則です。

なお、津波の到達時間や浸水範囲を個人が予測することはできません。必ず津波警報・注意報、および自治体の避難指示に従ってください。そして今日できることとして、自宅・職場・通勤経路が津波ハザードマップ上でどう表示されているかを一度確認してみてください。

車を使うことが認められる可能性がある例外

ここまで読んで、「うちの家庭では徒歩避難は無理だ」と感じた方もいらっしゃると思います。その感覚を、私は否定しません。公的な方針も、車避難を一律に禁止してはいないからです。

前述のとおり、津波避難時の車の使用方針は、東日本大震災を経て「禁止」から「原則禁止(やむを得ない場合の例外を認める)」へと見直されました。この見直しの背景には、徒歩避難がそもそも成立しない人が現実に存在するという事実があります。

  • 自力歩行が難しい高齢者や、介助が必要な家族と同居している場合
  • 車いす利用者や、避難に支援を要する障害のある方がいる場合
  • 乳幼児が複数いるなど、抱えて長距離を移動することが現実的でない場合
  • けが人・病人がいて、徒歩移動が体調の悪化につながる場合
  • 自治体が地域の地形や道路事情を踏まえ、車を使った避難を前提とした計画を定めている場合

ただし、ここで強くお伝えしておきたいことがあります。「自分の地域は車避難が認められている」と、確認せずに思い込まないでください。車避難を前提とした計画があるかどうかは、地域ごとにまったく異なります。この記事で特定の自治体名を挙げて「ここは車で避難してよい」と書くことはできませんし、するべきでもありません。必ずお住まいの自治体の地域防災計画・避難計画・ハザードマップで、ご自身の目で確認してください。

初心者ユーザー

うちは祖父母と同居しているので、歩いて逃げるのは正直厳しいです…。やっぱり車を使うしかないんでしょうか。

車購入検討者

私もペットがいるので気になります。連れて歩くとなると、かなり時間がかかりそうで…。

自動車専門家 Mr.K

そういうご家庭こそ、当日に悩まないための準備が要になります。「使うかどうか」を災害の最中に考えるのではなく、平常時に条件を決めておく。次の章で、その具体的な進め方を整理しますね。

例外に該当し得る家庭であっても、「では車で行こう」と即断するのではなく、次のような条件を平常時に整理しておくと、判断の精度が上がります。避難先までの距離、経路の道幅と渋滞しやすさ、迂回路の有無、出発できるまでの所要時間、そして車が使えなかった場合の代替手段。これらを事前に一度でも書き出しておくと、当日の選択肢が「車か徒歩か」の二択ではなくなります。

そして最終的な避難の可否・方法は、その時点の警報や自治体の指示が優先されます。事前に決めた計画があっても、当日の指示と食い違う場合は公的機関の指示に従ってください。

徒歩避難が難しい人がいる家庭の事前準備

徒歩避難が難しい人がいる家庭の事前準備

この章の主題は一つです。避難方法は、地震が起きてから考えるものではなく、平常時に決めておくものだということ。特に、徒歩避難が難しい家族がいる家庭ほど、事前の設計が結果を左右します。

近年、高齢者や障害のある方など避難に支援を要する方について、一人ひとりの状況に応じた個別避難計画を作成する取り組みが各自治体で進められています。誰が支援するのか、どの経路で、どこへ、どの手段で避難するのかを、平常時に具体的に決めておく仕組みです。まずは自治体の防災担当窓口や地域包括支援センターに、自分の家族が対象になるかを問い合わせてみてください。

平常時に確認・決定しておきたいこと

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項目確認・決定しておくこと
避難先指定緊急避難場所、津波避難ビル、福祉避難所の位置と、そこまでの高低差
経路第1ルートと、通れなかった場合の代替ルート。段差・階段・狭い橋の有無
支援者誰が誰を支えるのか。同居家族が不在のときに頼れる近隣の方の連絡先
移動手段徒歩・車いす・避難用リヤカー・車のうち、どれを主とし、どれを代替とするか
持ち出し品常用薬、お薬手帳の写し、補装具、母子健康手帳、ペット用品などの保管場所
連絡方法家族が別々の場所にいた場合の集合場所と、災害用伝言サービスの使い方

ここで一つ、現実的な提案をさせてください。計画は、紙に書いて冷蔵庫や玄関に貼っておくこと。スマートフォンの中だけに保存していると、停電や充電切れ、あるいは本人が不在の場面で参照できません。家族の誰が見ても同じ行動が取れる状態にしておくことが、計画の実効性を決めます。

また、車を使う可能性がある家庭ほど、この後の2つの章の内容が重要になります。避難後に車内で過ごすことになった場合のリスク、そして車に載せておきたい備え。どちらも「車で逃げるため」の話ではなく、「車が生活の場や避難の途中の拠点になってしまったとき」に効いてくる知識です。

週末に30分だけ時間を取って、家族で一度話し合ってみてください。「うちは誰が誰を支える?」「歩けなかったらどうする?」。この会話ができているかどうかが、当日の数分を分けます。

車中避難という選択の危険性と注意点

ここからは、これまでとまったく別のテーマに切り替わります。「移動手段としての車」ではなく、「避難生活の場としての車」の話です。この2つを混同すると判断を誤りますので、章を分けて整理します。

結論から言えば、「車の中にいれば安全」とは言えません。プライバシーが保てる、ペットと一緒にいられる、避難所の環境が合わないといった理由で車中避難が選ばれることは実際にありますが、そこには固有のリスクが伴います。

車中避難に伴う主なリスク

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リスク起こりやすい状況基本的な考え方
エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)座席で長時間同じ姿勢を続ける、水分摂取を控える定期的に車外に出て体を動かす、こまめに水分を取る、足を伸ばせる姿勢を確保する
一酸化炭素中毒積雪でマフラー周辺が埋もれた状態でのエンジン始動降雪時はエンジンをかけたままにしない。やむを得ない場合はマフラー周辺の除雪を徹底する
熱中症・低体温症夏場の車内温度上昇、冬場の暖房停止直射日光を避ける場所を選ぶ、換気する、寝袋や毛布など温度対策を用意する
浸水・冠水河川敷、アンダーパス、低地、海に近い駐車場そもそも低い場所に車を停めない。水位が上がる兆候があれば早期に車を離れる
余震による落下物・倒壊建物・ブロック塀・電柱・立体駐車場の近く頭上と周囲に倒れてくるものがない開けた場所を選ぶ

過去の災害では、車中泊に起因するエコノミークラス症候群の発症が繰り返し報告されてきました(参考:日本経済新聞)。座席に座ったまま長時間動かない状態が続くと、脚の静脈に血栓ができ、それが肺の血管に詰まることで重篤な症状を引き起こす場合があります。特に、トイレを気にして水分を控えることが引き金になりやすいと指摘されている点は、知っておく価値があります。

積雪地域では、一酸化炭素中毒も無視できません。マフラーの排気口が雪で塞がれると、排気ガスが車内に逆流します。無色無臭のため気づきにくく、眠っている間に進行する危険があります。

やむを得ず車中避難を選ぶ場合の基本

  • 停める場所を選ぶ:低地・河川敷・海沿い・倒壊物の近くを避け、開けた高い場所を選ぶ
  • 体を動かす:数時間ごとに車外へ出て歩く、車内でも足首を回す・ふくらはぎを伸ばす
  • 水分を取る:トイレを気にして水分を控えないよう、携帯トイレを備えておく
  • 換気する:エンジンを切った状態でも定期的に窓を開けて空気を入れ替える
  • 姿勢を作る:シートを倒し、クッションや荷物で足を水平に近づけられるようにする
  • 孤立しない:自治体・避難所の運営者に車中避難していることを伝え、支援や情報から取り残されないようにする

なお、体調に関する判断は自己流で行わないでください。脚のむくみや痛み、息苦しさ、胸の違和感などを感じた場合は、我慢せず救護所や医療機関に相談してください。この記事は医療的な診断や治療法を示すものではありません。

車に備えておきたい防災用品(運転中の被災・帰宅困難・避難後の備えとして)

最後に、備えの話をします。ここで一つだけ、前提をはっきりさせておきます。車載の防災用品は「車で逃げるための道具」ではありません。そう考えてしまうと、この記事でここまで整理してきた原則と矛盾してしまいます。

車に備えるものの役割は、次の3つに整理できます。

  • 運転中に被災した場合の備え:外出先で足止めされ、当面をその場でしのぐ必要が生じたとき
  • 徒歩帰宅・徒歩避難になった場合の備え:車を置いて歩き出すときに、持って出られる形であること
  • 避難後の生活で不足するものを補う備え:断水・停電が続く中で、衛生や体調を守るため

品目としては、保存水と非常食、携帯トイレ、モバイルバッテリー、懐中電灯やランタン、ホイッスル、軍手、レインウェアや保温シート、救急用品、そして脱出用ハンマーあたりが基本になります。車内は夏に高温、冬に低温となる過酷な環境ですので、保管温度の目安や交換時期の表示を確認しておくと安心です。

実際に市販の防災セットの内容一覧を並べて比較してみると、ひとつ気づくことがあります。点数の多さと実用性は必ずしも一致しないということです。数十点入っていても、自分の家族構成では使わないものが多ければ意味がありませんし、逆に「持ち出せる形になっているか」「トイレの備えがあるか」といった観点は、点数の数字には現れません。ここが意外と盲点です。

なお、以下で紹介する製品も含め、防災用品は「これさえあれば安心」というものではありません。あくまで、想定する場面に合わせて過不足を埋めるための道具として検討してください。

運転中に被災し帰宅困難になった場合に備える:車載用防災セットDX A4ボックスタイプ

通勤や出張などで車に乗っている時間が長い方は、そのまま外出先で被災する可能性が最も高い層です。とはいえ、車内スペースを大きく占有する備えは続きません。A4ボックス型は、シート下やラゲッジの隅、デスク引き出しのような感覚で収められるのが特徴で、「置き場所が理由で防災セットを降ろしてしまう」という事態を避けやすい形状です。

収納サイズと中身の構成が自分の使い方に合うかどうか、内容一覧を確認してみてください。

車を置いて避難した後、徒歩移動しながら使うことも想定して備える:車載用防災セットDX リュックタイプ

この記事の第4章で整理したとおり、状況によっては車を置いて歩き出す判断が必要になります。そのとき問われるのが、備えが「持って出られる形」になっているかという点です。箱型はスペース効率に優れる一方、抱えて歩くには向きません。両手が空くリュック型は、避難の途中で車を離れる可能性を前提に備えたい方に向いた形状です。

背負って移動する場面を想像しながら、内容量と重さのバランスを確かめてみてください。

避難後の生活で不足しがちな衛生用品に備える:携帯トイレ 6枚セット

前章で触れたとおり、車中避難でエコノミークラス症候群のリスクを高める要因のひとつが、トイレを気にして水分摂取を控えてしまうことです。断水・停電が続けば、避難所や施設のトイレも使えなくなることがあります。衛生用品の備えは、快適さの問題であると同時に、体調管理の問題でもあります。

車内という限られた空間でどう使うものなのか、容量や凝固の仕様を確認しておくと備えの見通しが立てやすくなります。

選ぶ際の視点はシンプルです。「自分は車にどれくらい乗るのか」「車を置いて歩く可能性はどの程度あるのか」「家族に配慮が必要な人はいるか」。この3つに照らして、まずは1つだけ検討してみてください。完璧な備えを一度に揃えようとすると、たいてい先送りになります。

よくある質問(FAQ)

車で逃げてもよい場合はありますか?

あります。津波避難時の車の使用は「原則禁止」であって「絶対禁止」ではありません。高齢者・障害のある方・乳幼児・けが人など徒歩避難が現実的に難しい家族がいる場合や、自治体が地域の事情を踏まえて車を使う避難を前提とした計画を定めている場合などが該当し得ます。ただし、ご自身の地域が該当するかどうかは自治体の地域防災計画・避難計画・ハザードマップで平常時に確認しておいてください。当日の判断は警報および自治体の指示が優先されます。

運転中に地震が起きたら、まず何をすればよいですか?

急ハンドル・急ブレーキを避けることが最優先です。ハザードランプを点灯して後続車に異常を知らせ、徐々に減速しながら、できるだけ安全な方法で道路の左側に停止させます。停止後はエンジンを切り、揺れが収まるまで車内で待ち、カーラジオなどで地震情報・交通情報を確認したうえで次の行動を判断してください。交差点付近、法面や崖の下、トンネルの出入口付近への停車は避けます。

車を置いて避難するとき、キーはどうすればよいですか?

エンジンを止めたうえで、エンジンキーは付けたままにするか、運転席など車内の分かりやすい場所に置きます。窓は閉めますが、ドアはロックしません。平常時の駐車マナーとは逆になりますが、これは災害時に車を移動させる必要が生じた際、避難者の通行や緊急車両の妨げにならないようにするための措置です。駐車位置はできるだけ道路外へ、やむを得ず道路上に置く場合は左側に寄せてください。

車中泊はどのくらい危険ですか?

危険度を一律の数値で示すことはできませんが、注意すべきリスクははっきりしています。長時間同じ姿勢を続けることによるエコノミークラス症候群、積雪でマフラーが埋もれた場合の一酸化炭素中毒、夏場の熱中症、低地での浸水、余震による落下物などです。移動手段としての車避難とは別の問題として備える必要があります。車外に出て体を動かす、水分を控えない、換気する、停める場所を選ぶといった基本を押さえ、体調に異変を感じたら救護所や医療機関に相談してください。

まとめ

まとめ

最後に、この記事の要点を整理します。

地震のときに車で逃げることが原則として勧められないのは、多数の車が一斉に動くことで渋滞や事故が起こり、徒歩避難者や緊急車両の通行を妨げ、結果として自分と周囲の人の避難を遅らせる可能性があるからです。そこへ、停電による信号機の停止、路面の損壊、落下物、液状化といった地震直後特有の道路リスクが重なります。車内は外の状況が見えにくく、渋滞に入ってから気づいても引き返せません。

一方で、これは「絶対禁止」ではありません。津波から一刻も早く離れる必要がある場合、徒歩避難が難しい家族がいる場合、自治体が車避難を前提とした計画を定めている場合など、車の使用を検討せざるを得ない状況は現実に存在します。だからこそ、原則と例外を混ぜずに理解しておくことが大切です。

今日のうちに覚えておきたい3つのこと
  • 運転中に地震が起きたら:急ハンドル・急ブレーキを避け、ハザードランプを点灯し、道路の左側へ停止。エンジンを止め、揺れが収まるまで車内で待ち、情報を確認する
  • 車を置いて避難するときは:できるだけ道路外へ、やむを得ない場合は左側へ。エンジンを止め、キーは付けたままか車内の分かりやすい場所に置き、窓を閉めてドアはロックしない
  • 津波のおそれがあるときは:徒歩避難が原則。遠くではなく「高く」を目指し、車に固執しない

これらは、揺れが始まってから調べていては間に合いません。今のうちに覚えておくからこそ、体が動きます。そして、備えの最後のピースは「自分の地域を知っておくこと」です。自治体のハザードマップ、指定された避難場所、避難経路、家族構成に応じた個別避難計画。ひとつずつでかまいませんので、平常時のうちに確認しておいてください。

自動車専門家 Mr.K

地震が起きてから考えるのではなく、今日、家族と避難方法を話し合っておくことが一番の備えです。ハザードマップを1枚開くところから始めてみてください。

なお、本記事は警察庁・内閣府防災情報・気象庁・国土交通省・JAF等が公開している情報をもとに整理したものであり、個別の状況における避難の可否を判断するものではありません。医療・救助・交通規制・避難の可否については、必ず警報および自治体・公的機関の指示に従ってください。

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